大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 昭和47年(借チ)47号 決定 1973年8月06日

第四三号事件申立人第四七号事件相手方(借地人)

杉浦二三

外四名

右五名代理人

山田重行

第四三号事件相手方第四七号事件申立人(地主)

山田きん

右代理人

林忠康

外二名

主文

借地人杉浦二三、同谷口道子、同尾関節子、同杉浦忠昭、同杉浦忠武が地主山田きんに対し、別紙物件目録記載の借地権及び建物を代金一八三七万円で売渡すことを命ずる。

右借地人らは地主山田きんに対し、右代金の支払を受けるのと引換えに、右建物の引渡及び所有権移転登記手続をせよ。

地主山田きんは右借地人らに対し、右建物の引渡及び所有権移転登記手続の履行と引換えに、右代金の支払をせよ。

本件手続費用は当事者の各自負担とする。

理由

昭和四七年(借チ)第四三号賃借権譲渡許可申立事件において、その相手方である地主山田きんから建物及び借地権について買受けの申立て(同第四七号事件)が適法になされたので、当裁判所は、別紙物件目録記載の借地権及び建物につき、相当の対価を定めてその譲渡を命じなければならない。そこで、右対価はいくらを相当とするかについて検討する。

一本件資料によれば、次のような事実を認めることができる。

1  本件借地人らの被相続人たる杉浦忠雄は、昭和二六年一月一日に、佐藤能登より別紙物件目録記載の土地(以下本件土地という)を非堅固建物所有を目的として期間を三〇年(期間の定めをしなかつたので借地法第二条一項に従い)として借受け、昭和二六年三月建物(居宅)を建築し、以来ここに居住してきた。別紙物件目録記載の建物(以下本件建物という)は前記建物の既存部分74.25平方米に昭和三六年三月に33.18平方米増築されたものである。本件地主山田きんは、昭和三二年一月頃右佐藤能登より本件土地の譲渡を受けると同時に右賃貸人の地位を承継した。また昭和四五年六月六日右杉浦忠雄が死亡したので、本件借地人らが相続により、本件建物の所有権及び本件借地権を取得するに至つたこと。

2  本件土地の右賃貸借契約締結時及びその後において、借地人側より地主に対し、権利金、保証金、名義書替料としての金銭の支払はなく、本件土地の月額賃料は、昭和二六年一月以降金六八四円、昭和三二年一月以降金一、八〇〇円、昭和三五年四月以降金二、四〇〇円、昭和三九年四月以降金三、六〇〇円、昭和四二年七月以降金五、〇〇〇円、昭和四四年九月以降現在まで金七、〇〇〇円であること。

3  昭和四五年六月右杉浦忠雄死亡後、本件建物には未亡人杉浦二三と二男杉浦忠武夫婦及びその二児が居住しているが、本件土地の四囲は契約当初とは大いに変貌を来たし、前面道路国道一六号線は自動車の往来がはげしく、老人幼児の居住には適せず、かつ遺産分割をも実現しなければならないので借地人らは本件建物等を売却して換金することを願つており、一方地主は、老令、孤独な婦人で現在独り暮しであるが、本件借地権が消滅し本件建物を買取つた場合には、ここに長男夫婦とその子供二人を呼び寄せ同居することを望んでいること。

二本件借地権及び建物の価格についての鑑定委員会の意見は、次のとおりである。

本件土地及び近隣は開発途上の商業地域であり、また本件土地中の北西部分約三分の一は都市計画施行区域として建築制限を受けている点などを考慮して、本件土地の更地価額を金四、二一〇万二、〇〇〇円(3.3平方米につき金三四万九、〇〇〇円)とし、借地権価額をその六割五分である金二、七三六万六、〇〇〇円とし、本件建物価額(附帯諸設備の価額を含む)を建築年月日、現況耐用年数等を考慮して金一五〇万円であるとしている。

右借地権価額、建物価額は一般の取引額として妥当であると認められる。

三地主が借地権を買受ける場合の対価の決定をするにあたつては、賃貸借契約をした時の事情及びその後の経過、殊に権利金、名義書替料等の授受の有無及びその金額、残存期間、期間満了の場合の拒絶の可能性はどうか等諸般の事情をも合せ考慮すべきものと解する。

ところで、近年の土地価額の急騰は、主として会社経済事情の変動とこれに基づく大都市の急激な膨脹の結果であつて、土地所有者や借地人が土地の価値増殖に尽力したことによるものではない。本件土地価格の高騰も右の例にもれず、前記借地権価額は大部分が右の事情で土地が値上りしたことにより形成されたものであるから、借地人が借地権を処分することによつて価額の高騰による利益を受ける際には、土地所有者との間で利益の衡平をはかるため所有者にその利益の一部を還元することは、土地の賃貸借関係の現状において適当であると認めざを得ない。そこで、前記借地権価額金二、七三六万六、〇〇〇円から百万円未満の端数を切り捨てた金二、七〇〇万円(右程度の端数金円を切捨てても、価額の妥当性は失われないものと考える。)を両者間でどのように配分するのが相当であるかについて、考察してみる。

本件借地契約の存続期限は昭和五五年一二月三一日であつて、右期間が満了の場合には前認定の事実からみると契約の更新は期待しがたいことがうかがわれるから、残存期間は七年六月(昭和四八年七月からみて)であり、更新がないとすれば、借地人らは存続期間三〇年に対し約二割五分に当る利用権が残されているとみることができるので、したがって、金二、七〇〇万円の二割五分にあたる金六七五万円は借地人らが受けるべき分とする。

次に本件の場合、賃貸借契約時及びその後において権利金等の金銭の授受がなかつたことは前認定のとおりであつて、借地人側において、本件借地権の取得やこれを保持するについて、また借地利用にあたり土地自体に関して、格別に資本が投下されたことが認められないばかりでなく、契約当初より現在までの賃料も相当低廉な価格で推移してきた事情をも参酌して、前記金二、七〇〇万円から右金六七五万円を控除した残額金二〇二五万円はこれを折半し、各半額を受けるものとして計算するのが相当である。すなわち借地権譲渡によつて生ずる利得金のうち金一〇一二万五、〇〇〇円をもつて地主に還元されるべき金額とする。

四以上により、本件借地権価額金二、七〇〇万円より金一〇一二万五、〇〇〇円を控除した金一六八七万円(一万円未満切捨)と本件建物についての前示価額金一五〇万円との合計金一八三七万円をもつて、地主山田きんが本件借地人らに対して支払うべき対価とするのが相当であると認める。

よつて、借地法第九条の二第三項に従い、主文のとおり決定する。

(川名秀雄)

物件目録<略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例